RF、ミリ波、THz
シリーズ : マイクロ波回路設計開発の軌跡 ~その5. 積層セラミックコンデンサの異常電圧発生
ミリ波デジタル通信システム運用後、冬季に入りデータ伝送が瞬断する不具合を経験した。原因を突き詰めて調査し、温度変化のストレスによる高インピーダンス回路内のセラコンが瞬間的に高電圧発生したことが判明した。また、機械的振動、衝撃による、受信機の自動周波数制御(AFC)のVCO周波数異常も経験した。
本不具合はコンデンサの種類を変更し、解決した。
圧電特性を利用した電子部品の水晶発振子、弾性表面波フィルタは有名だが、コンデンサの静電容量のように主要特性以外の特異な特性には注意が必要だ。
シリーズ : マイクロ波回路設計開発の軌跡 ~その4. マイクロ波アンテナの利得変動問題
波長が短くなると気象の影響を受け易くなる。アンテナ自体では、反射板やレドームに付着する水分の雨、氷で指向特性が変動する。付着する雨が、低温で凍ると特異な受信電力変動特性を示す場合がある。水は、液体の誘電率は80 であるが凍ると4程度に激減する。筆者は、客先から山間峡谷部に設置したミリ波デジタル無線回線が、冬季の晴天時の朝方に受信レベルが落ち込み、また短時間に復旧するという現象について原因究明の依頼があり、現地調査を行った。調査の結果、無線送受信装置の問題でなく、夜間の冷え込みで高利得パラボラアンテナのレドーム(radome)表面に付着した霜が日の出とともに溶け水に変化し、アンテナの指向性が変化した事が原因と判明した。レドームに付着する雪、氷の場合、不均等な厚み、雪質、付着時間が複雑で受信レベル変動の予測が困難であった。対策は、レドームに雪、氷が付着しにくい、形状、レドームの材質、融雪装置などである。
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コーヒーブレイク
1世紀前の電波検出器、いまだ消えず。
我が国の無線通信史で最初にクローズアップした電波検出器はコヒーラだ。明治36年(1903年)に開発された36式無線通信機の受信検出器もコヒーラであった。日本海海戦の勝利は軍艦に搭載された36式無線通信機によりロシア艦隊の動きをいち早く伝達したことが大きい。私は36式無線通信機を横須賀の記念艦三笠やYRP無線歴史展示室で見てきた。送信機は、高圧トランス、蓄電池、電鍵、断続器、火花ギャップ、受信機はコヒーラ、デコヒラー、リレー、印字機といった極めて簡単な構成であった。
雑音の塊みたいな送信波とフィルタが無く混信に極めて弱い受信器であり、脆弱な秘匿性で暗号が頼りの無線システムだった。
マルコニーの無線電信成功が1895年だから、随分早く1000kmも届く無線機が導入されたものだ。
マルコニーは移動体への無線通信の価値を見抜いていたのだろう。
現代でも、雷検知ユニット(平川製作所)やコヒーラ検波器を内蔵したラジコンカーの復刻版(学習研究社)が売られている。
私は、65年前頃電源なしで放送音声が聞こえた鉱石ラジオに無線ロマンを抱いた。また、60年前頃、デパートのおもちゃ売り場でみたラジコンロボット(コヒラー内蔵)に大変興味を覚えた。なぜ、空間で情報が伝わるのか知りたくて電気通信の学校へ進学した。電磁波を発見したヘルツは、数メートル離れた場所からの送信電磁波を検出した受信方法は、共振器のギャップに飛ぶ火花を目視することだった。
マルコニーの長距離無線通信実験に成功した受信器はコヒーラ検出器が有名だが、鉱石検波器も20世紀初頭前後に現象は発見されていた。先に実用したのがコヒーラだ。
コヒーラの最大の欠点は、電磁波電圧がコヒーラに印加されると、直流抵抗が低下するがその後電磁波が消滅しても直流抵抗が変化しないことだ。そのため、機械的衝撃を与え元の高抵抗に復旧させる(デコヒラー)ため通信速度が極めて遅いことだ(ワンショットトリガーに似ている)。 だが、誰でも簡単に電磁波の検出実験ができるので、教育現場でも使われているようだ。筆者も小さなプラスチックコップにパチンコ鋼球を18個入れ、電極の銅板2枚をコップに差し込んだだけのコヒーラを作り実験してみた。送信の電磁波は、ガス点火用チャッカマンの放電火花を使った。直流抵抗は、20Ω前後から200Ω前後の変化を確認できた。コヒーラをスイッチとみなし、電池とLEDをつないで光の点滅を確認した。距離1m位まで応答した。マルコニーの偉大さは、飽くなき通信距離延長に執念を燃やし、実現したことだ。
マルコニーの長距離通信化の技術要素は、アンテナ、アース、共振器、高感度検波器、高周波発電機と言われている。高周波発電機を除き、現在でも常用されている。
シリーズ : マイクロ波回路設計開発の軌跡 ~その3. 導波管フランジ、ケーブルコネクタも歪む?
異種金属の接触面では電位差が発生することは100年以上前から知られていたが、普通は無線機の金属ケース、ケーブル、コネクタで電気的歪の影響は考えない。ただの金属同士の接触が影響するなんて思いもしなかった。しかし、多周波数の送受信波を共用する伝送路において、高感度受信機では、要注意だ。多数の無線システムと共存する場所に、アンテナ,送受信装置一体型ミリ波無線システムを複数納入することになり、ある現地のみ円形導波管給電線でアンテナと送受信装置を結ぶ構成となった。客先から給電線方式に対し、異なる無線機による干渉雑音の不具合有無を検討するように言われた。先輩から聞いていた給電線の非線形歪による干渉を検討して問題ないことを確認し、無事運用することができた。屋外送受共用アンテナと屋内多搬送周波数の無線装置を接続する導波管や同軸の給電線の接続フランジ、コネクタにおいて接触表面に非線形半導体が形成され、マイクロ波ひずみが発生する。例えば、3次混変調の場合、多無線チャンネルを1本の給電線で送受信する場合、強い送信波で給電線の接触部に非直線特性があると僅かであっても三次混変調歪が計算式通りの周波数帯に発生する。歪波が受信周波数帯と一致すれば降雨などで受信レベルが下がれば伝送特性に影響を与えることになる。
アナログ多重通信方式時代において大電力の送信波と高感度受信波が多チャンネル送受信装置とアンテナを結ぶ給電線(導波管または同軸ケーブル)が用いられた。給電線は異種金属の同軸コネクタ、導波管フランジが使用され、この接触面に形成される非線形特性が大敵のひずみ雑音となる。現代も圧倒的に多数の移動無線基地局はマイクロ波周波数のCHを共用するので、アンテナ、給電線は、歪に対する配慮がなされていると考えられる。
現在、この対策として、低い混変調歪特性の同軸ケーブルが実用化されているようだ。
シリーズ : マイクロ波回路設計開発の軌跡 ~その2. 猫ひげでトラブル発生?
ホイスカ(whisker,ひげ状結晶)による回路短絡でシステムの信頼度が低下する場合がある。 マイクロ波集積回路(MIC)で使用される金属(銅、ニッケル、鉛、錫、真鍮、アルミ、金、銀、窒化タンタルなど)が針状の単結晶に成長し、異種回路が形成され、短絡状態になるトラブル。W-40Gプロジェクト開発仲間からホイスカの不具合を見せてもらったことがあった。それは注意深く見ないとわからない代物であった。ホイスカは、ケース、部品、半田、などに使用される金属種類、メッキ種類、電圧印可、湿度、温度など複雑に関係するらしい。
私が当時担当した回路ユニットには、ホイスカ対策として切削アルミケース内に絶縁体カバーを追加、メッキ種類の設計変更措置を行った。さらにユニットを実装するミリ波送受信盤には、吸湿すると変色する交換可能なシリガゲル缶を実装した。
高周波回路を実装するアルミケースは、ホイスカ不具合防止効果や錆に強いアルマイト加工(酸化膜処理)が多用されるようになった。
ホイスカの径はミクロン単位で、肉眼では発見し難く、強度もあり、電圧印可される回路ではホイスカが短絡してすぐに溶断し、デバイスは破損せず、正常状態に復旧することがあり、始末が悪い。短間隔、長時間動作、高湿度環境、高電位差、は要注意である。回路の金属間に電位差がある場合、ホイスカ現象と似たマイグレーション現象(絶縁特性劣化)も要注意だ。
ホイスカの問題は、マイクロ波回路に限らず電子回路全般に及ぶ。ICの集積度が上がる現在では、金属線路間がミクロン単位まで微小化しており、IC内部や空気中を飛ぶような微小なホイスカの侵入でも問題を起こすため、その防止策の開発が進められている。
アルマイト加工金属ケースの注意点。
私が近年購入したアルミ製ケースは、透明なアルマイト処理されており、導通すると思いきや絶縁被膜になっていた。アルミケースにフランジ付きマイクロ波用コネクタ(SMAなど)を取り付ける場合、同軸外導体の接触部分は最短距離で接触することが重要であり、接触部分をアルマイト剥離処理をして取り付けるなど、絶縁被膜には注意が必要だ。ねじ止めで直流の導通があってもマイクロ波では絶縁面のために最短で導通せずグランドインピーダンスが高くなる場合があるからだ。
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精密アンテナ測定の方法(アプリケーション別)
Microwave Journal に掲載されている精密アンテナ測定に関する記事 Precision Antenna Measurements eBook.pdf です。
特に、プリント基板アンテナの測定ヒント(25ページ)などを掲載
使用されている測定器 です。
シリーズ : マイクロ波回路設計開発の軌跡 ~その1. 高調波は要注意!
大出力増幅器、逓倍回路の高出力系は、非線形歪で高調波が発生しやすい。金属ケース内にRFデバイスを実装する回路では、基本波では問題ない空洞共振や導波管モードによる入出力間の結合が高調波周波数帯で影響が生じることがあった。金属ケース内は矩形導波管状であればTE10モードの遮断周波数以上は伝搬し、基本的に空洞共振器となる。実際に失敗した例は、開発中の逓倍器(4逓倍×4逓倍)の出力(目標2GHz,1W)測定において導波管減衰器にパワーメータを接続して行い、大なる出力値が出て喜んでいたところ、後になって真実でないことが判明。種々調査したところ、導波管減衰器がTE10モードの電界が山になる位置(導波管の横幅1/2)に減衰用抵抗膜があり、TE10モードでは正しい減衰量になるが、高調波ではTE20モード(電界が谷)でも伝搬し、減衰が少なくなる為とわかった。 また、基本波でもマイクロ波回路の周波数特性劣化を経験したことがある。マイクロストッリップラインのミキサで変換特性が金属ケースの蓋の開閉で変換周波数特性や局発波の漏洩量が変化した。原因はケースの空洞共振であった。電波吸収体、金属片をケース内に装荷し、共振周波数を帯域外に変化させ解決した。